貝殻形をしたかわいらしいお菓子は時を超え
人々に愛され続ける
見ての通りの、貝殻形をしたかわいらしいお菓子です。またマドレーヌと
いう名前も愛らしいですね。それだけに、これにまつわるいわれや逸話も
少なからずあります。19世紀に活躍したフランスの製菓人ピエール・ラカン
Pierre Lacam(1836~1902)の書いた「パティスリー覚え書き」によると、
ナポレオン時代(在位1804~1814)、タレイラン公のもとで働いていたアヴィス
という偉大な製菓人によって作られたとされています。
彼はカトル・カール(パウンドケーキの一種)用の種を用いて、ゼリーの
寄せ型で小さなお菓子を作ったところ評判となり、菓聖と謳われたアントナン
・カレームなどの称賛を得たといいます。そして、心地よい口当たりと小さな
かわいらしい形からイメージしてマドレーヌと名付けられたとか。なお、別の
説ではこれよりはるか以前に作られていたともいわれていますが。
マドレーヌの作り方は長い間秘密にされていました。あるときそれは、ロレ
ーヌ地方ムーズ県コメルシーという町のお菓子屋に非常に高い値段で売ら
れました。その製法を買った土地の人は、この美味なお菓子を自分たちの
町の名物にしたといわれています。事実、今もマドレーヌはこの町の銘菓と
して多くの人々に親しまれています。またさらに別の本では、発明者はコメ
ルシーの町でコックをしていたマドレーヌ・ポールミエという人だと特定して
います。その他にも、ルイ15世の義父である元ポーランド王スタニスラス・
レクチンスキー付きの女性料理人が考案したとの説もあります。スタニスラ
ス王がルイ15世妃である娘のマリー・レクチンスキーにこれを届けたところ、
たいそう気に入り、考え出した料理人の名誉を称えるために、彼女の名を
とってマドレーヌと名付けたといいます。
エピソードはいくつあっても楽しいもので、ヴェールに包まれていればいる
ほど好奇心をそそられます。ただ諸説を見るに、やはりコメルシーを発祥と
するものが有力なように思われます。
なお形については、最初から小型ではあったようですが、なぜ貝殻形に
なったのかはつまびらかでありません。古くよりスペインの大西洋岸にある
サンチャゴ・デ・コンポステーラという寺院への巡礼が盛んでしたが、その
巡礼者たちがホタテ貝の殻をお守りとして、あるいは携帯用の食器として
リュックサックの背に付けて持ち歩く習慣があり、それを引き継いでいるとも
いわれています。
また長さ4~5cmのマドレネット madeleinette と呼ばれるひと口サイズの
小さなものがありますが、これについては、作られたのは近年。昔の資料に
は見当たりません。かわいらしいプティフールのひとつとしてのお目見えで、
配合や作り方は通常のものと変わりませんので、それ用の型を見つけられ
たら、一度試してみてはいかがでしょう。
それにしてもこのマドレーヌ、そのかわいさと食べやすさ、そしてそのおいし
さゆえに、古今多くの人々を魅了してきました。フランスの小説家にして思想
家のマルセル・プルーストもそんな人のひとりだったようです。
文献:吉田 菊次郎 編・著 「クリムとドリムの冒険」偉人が愛したスイーツ