ドイツの甘くないケーキ
直訳すると「たまねぎのお菓子」です。ドイツ地方にはこういうのが多いですね。同様のものに、カルトッフェルクーヘンKartoffelkuchen なんていうものがあります。これは「じゃがいもケーキ」。文字通りじゃがいもたっぷりのケーキです。クーヘンとはケーキの意味ですが、決して甘い味付けではありません。甘くないケーキもあるのです。いってみれば軽食代わりのおやつのような感覚で親しまれているもの。見てくれも派手さはなく、いかにも質実剛健なドイツの国民性を思わせるところがあります。
同様なものが他国にはないかと周りを見回したら、ありました。フランス北部のロレーヌ地方の銘菓として親しまれているキシュ・ロレーヌ quicheLorraine。こちらも銘菓とされてはいるものの、中身は基本的にはたまねぎとベーコンと卵で作られた塩味のもので、料理の範ちゅうとしてとらえてもいい、この地の名物のひとつです。筆者も在欧中はよくこうしたもののお世話になったものです。なんとなれば、あちらのレストランは食べられる時間が決まっていて、お昼時などにその時間をはずそうものなら、どこも閉まって食べそびれてしまい、空腹を抱えて夕食時まで待たねばなりません。そんなときには近くのカフェに飛び込むと、こうしたものを扱っていて、ちょっとした小腹を満たすことができるのです。
よい機会です。ここでそんな役目を果たしてくれる「ツヴィーベル」こと、たまねぎについて、少しばかり考察を深めてみましょう。
たまねぎというのは改めて見てみると面白いですね。実に奥行きが深い。生のときはとてつもなく辛く、ナイフを入れたとたんに目をやられます。一切れ口にくわえれば大丈夫というのはまったくのウソで、痛いものは痛い。ところが煮たり炒めたりして熱が加わると、今度はほんのり甘くなる。
また肉や魚のいやな臭さを消し去り、逆にそうした素材のうまさを引き立てる役割も果たしてくれます。原産地を調べると、これがよく分からない。物の本によると、中央アジアから地中海あたりに至るまでとありますが、これでは広すぎて特定できません。まあ、ユーラシア大陸の中央部一帯でということにしておきましょう。ただ、日本にはなかったようで、江戸中期にオランダから長崎に持ち込まれたといい、本格的な栽培は明治になってからのことです。
そんなたまねぎをイースト生地にたっぷり詰め込んで焼き上げたドイツの逸品、なかなかのものです。ちょっとやみつきになりそうなほどに。ベートーヴェンが好んだであろうことは想像に難くありません。それを生んだ国、ドイツに想いを馳せながら食べるのも一興。また、野菜の苦手なお子様方でも、こんな形にすれば喜んで口にされるのではないでしょうか。
文献:吉田 菊次郎 編・著 「クリムとドリムの冒険」偉人が愛したスイーツ