クグロフから進化したサヴァランの生い立ち
香り高いラム酒をたっぷり含んだこのお菓子、日本でもすっかり根付き、洋菓子店の作る定番商品のひとつに挙げられるほどに親しまれています。
ところで、このサヴァランという商品名は、フランスの希代の美食家、ブリヤ=サヴァランという人の名前なのです。なぜその人の名が菓子名に?ではそのあたりをご説明いたしましょう。少々ややこしいですが、こういうことなのです。
そもそもの起源をたどると、ポーランド王のスタニスラス・レクチンスキー付きのシェフ、シュヴリオという人に行き着きます。彼はレーズンの入ったクグロフという発酵菓子を作っていたときに、新しい供し方として上からラム酒をふりかけて燃え上がらせる方法を思いつきました。これはフランスのロレーヌ地方の宮廷で大いにもてはやされ、いつもマラガ産のワインがソースとして添えられていたといいます。彼の主人のスタニスラス王は「千夜一夜物語」の愛読者で、自分のお気に入りのこのお菓子に、その物語の主人公アリ・ババの名を与えました。その後、ストレールという製菓人がアレンジして、お酒入りのシロップに浸すことを考えつき、今の形のババというお菓子ができました。これは、その形がワインなどのコルクの栓(フランス語でブションという)に似ているところから、ババ、ブション baba bouchon とも言われています。
さてその後、19世紀の中頃にオーギュスト・ジュリアンという人が、これにまた別のアイデアを盛り込みます。彼はババの生地にあえてレーズンを加えず、形をリング形に変えて作ってみました。また浸すシロップもラムの風味に変え、これにブリヤ=サヴァランの名を与えたのです。
ブリヤ=サヴァランとは、前途のように、名にし負う美食家としてあまねく知られ、「味覚の生理学」(美味礼讃ともいう)と名付けられた書も著わしています。そんな彼に敬意を表して命名されたこのお菓子は、後にただ短くサヴァランと入りのクグロフのアレンジだったババの、そのまたアレンジだったわけです。サヴァランというお菓子の生い立ちと命名の由来、お分かりいただけましたでしょうか?
なお、マリニャン marignan と呼ばれる同種のお菓子がありますが、これはバルケットと呼ばれる舟型をしたサヴァランで、横に切れ目を入れ、そこに泡立てた生クリームかカスタードクリームを絞り込んだお菓子です。また浸すシロップもラムの他、オレンジリキュールを使ったりもします。
ひとつのお菓子から次々といろいろな形に変化していくあたりも、お菓子作りの面白さと申せましょうか。
文献:吉田 菊次郎 編・著 「クリムとドリムの冒険」偉人が愛したスイーツ